研究者に聞いた「折り紙」をものづくりに取り入れるヒント——筑波大 三谷教授

※2025年3月末「fabcross」運営終了に伴い、自分が書いた記事をアーカイブとして転載しました。

日本で生まれ育った人なら、おそらく誰でも折り紙で遊んだことがあるだろう。ただ1枚の正方形の紙から、平面や立体のさまざまな造形を生み出す折り紙はクリエイティブで奥が深く、海外の人々を魅了している。

3Dプリンターが個人でも所有できるようになり、頭で思い付くどんな形でもそのまま造形できるようになったが、制約の大きい折り紙という手法だからこそ生まれる面白い形や、ものづくりの楽しさがあるのではないか。そう考えて、折り紙を研究している筑波大学の三谷純教授に話を聞きに研究室を訪れた。(撮影:西村法正)

ものづくり好きが3D CGを経て折り紙研究の道へ

私たちが「折り紙」と聞いて思い浮かべるのは、子どもの頃に折り鶴などを折ったカラフルな正方形の紙ではないだろうか。三谷教授が10年以上にわたり研究の対象にしている折り紙は、必ずしも正方形の紙を用いるわけではない。長方形や正八角形の紙から作る場合もある。ただ、1枚の紙から「折り」だけで作ること、「紙を切ってはいけない」ことが折り紙のルールだ。

三谷教授の所属は筑波大学大学院システム情報系情報工学域。専門は3Dのコンピューターグラフィックス(CG)だ。3D CGと折り紙。これだけ見ると、どういう関係があるのか今ひとつ分からない。そこで最初は、三谷教授の学生時代からの研究をひもといていくことにしよう。

「もともと機械やものづくりが好きで、学部生時代は工学部で精密機械を学んでいました。やがて研究室を選ぶタイミングを迎え、私が選んだのはCADを扱う研究室。当時(1996年)はちょうどインターネットが一般に普及し始めた頃で、『これからはコンピューターのほうが面白くなりそうだ』という気持ちもあり、ものづくりとコンピューターの両方に関われる研究室への配属を希望しました。研究室では3次元の形をコンピューターでいかにハンドリングするかを研究しました。それがCGの世界に入ったきっかけです」

CGを専門とする中で、「折り紙」に興味を持って掘り下げていこうと思った背景には、どのような経緯があったのだろうか。

「CADのようなものづくりのソフトウェアで設計するものの素材は鉄の平らな板であることが多く、板金という技術で加工することが多いのです。そうすると、素材があまり伸び縮みしない前提で、『折り』の加工で作れる形を設計することがすごく大事なことなんです……ただ、それは後付けの理由で、昔からペーパークラフトや紙工作がすごく好きだったことが大きな理由です(笑)」

3Dモデルから展開図を自動作成する「ペパクラデザイナー」を開発

そうはいっても、いきなり折り紙を研究し始めたわけではなく、当初の研究対象はペーパークラフトだったという。

「立体を組み上げるためにどのような展開図が必要かを計算するソフトウェアが当時なかったので、『自分で作れるんじゃないか』と思い立ち開発しました。それが博士課程での研究につながりました」

ペーパークラフトのウサギ。曲線で切られた紙片を内側からセロハンテープで継ぎ合わせている。

「例えばこのようなウサギを作ろうとしたときに、どのような形の紙を継ぎ合わせると実現できるのかという問題があります。全ての紙片を三角形にして、いわゆるポリゴンに置き換えて角張ったウサギにすることもできますが、紙は曲げられるのでリンゴの皮をむいたときの皮のようにしようと考えました」

そうして三谷教授は、学生時代のうちに3Dモデルデータから平面の展開図を自動生成するソフトウェアを開発し、インターネット上に公開した。それをベースに開発した3D紙工作用ソフト「ペパクラデザイナー」は商品化され現在も市販されている。

ペパクラデザイナーのWebサイト。

ペパクラデザイナーはOBJ/STL/3DSなどの3Dデータ形式の読み込みに対応しているが、3Dモデリングソフトウェアである「Metasequoia」の独自形式ファイルを高い再現性で読み込むことができるため、これが推奨されている。

読み込んだ3Dモデルに対してペパクラデザイナー上で切り込みを入れる位置を指定すると、ボタンひとつで展開図が自動で生成される。展開されたパーツにのりしろを付けることも可能だ。カッティングプロッターと組み合わせれば、ダイレクトに切り抜かれたパーツができ、あとは組み立てるだけという優れものだ。

「意外なのですが、国内よりも海外で英語版がたいへん広く使われているようです。紙工作や建築模型の作成、少し変わった形の箱のデザイン、コスプレ衣装の型紙作りのほか立体物の試作まで、幅広い用途で使っていただいています」

より制約の厳しい「折り紙」の世界に足を踏み入れる

その後、2004年に博士課程を修了。2005年に筑波大学大学院システム情報工学研究科講師に着任して研究者の道を進むことになった。

「次はもっと制約を厳しくして、紙を切らずに『折り』だけで立体を作るとすると、どんなインターフェースでデザインして、どんな形がどういう計算によって実現できるのか。そんなことが研究になりそうだと思って折り紙の世界に足を進めました」

2008年ごろには、回転対称な立体であれば比較的簡単に計算によってデザインできることが分かった。「1枚の紙で切らずに形を作る、しかも対称の形で」となると制約が厳しく、作れる形の幅も狭まるが、その半面、比較的簡単な関係式でその形を設計できるのだという。

真上から見ると回転対称になっている(右端以外)。

「ペーパークラフトの場合は、最初に作りたい形のモデルを3D CGでデザインすればいいのですが、折り紙の場合は同じようなアプローチで形を作ることができません。ただ、回転対称性を持った形に限れば、どこをどう折ればよいかを計算で求められることが分かりました」

三谷教授は、その計算を視覚的なインターフェースで行えるソフトウェアを開発し、2011年に公開する。「ORI-REVO」というプログラムだ。

ORI-REVOで視覚的に仕上がりの形をデザインする。

ORI-REVOでデザインする時は、最初に出来上がりの立体を上から見たときに、六角形になるか八角形になるか、正多角形の数字を設定する。そうした後に、今度は立体を横から見たときの断面の形を、マウスクリックで決めていく。すると、計算によって折り線が求められ、展開図と最終形の3Dモデルが出力される。展開図はAdobe Illustratorで読み込めるDXF、またはPNGのファイル形式で保存することが可能だ。

平面から立体を設計する「Origami Simulator」

ORI-REVOにより回転対称の立体は簡単に作れるようになった。その後は、回転対称ではない立体にも挑み始めた。

回転対称ではない形の作品。

「ORI-REVOで作れるのは、上から見たときに正多角形になっているものだけです。じゃあもう一段自由度を上げて、例えば上から見ると十字の形になるようにするにはどうしたらよいかを考えていく。自由度をひとつずつ拡張していくような考え方ですね」

こうして新しく設計の技術が開発されるのに伴って、作品の特性が変わっていくのだそうだ。この辺りの設計になってくると、計算に加えて経験に基づく感覚がものを言う世界に入っていくらしい。

3次元の形から逆算して作るのではなく、2次元の折り目を引いて、それを折るとどういう立体になるかをコンピューター上でシミュレートできるソフトウェアもあるのだそうだ。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生によって開発されたもので、その名も「Origami Simulator」

規定の仕様に従って山折り/谷折りなどの情報を含んだ画像ファイル(SVG形式またはFOLD形式)をOrigami Simulatorに読み込んで、画面下部にあるスライダーのつまみを「Folded」のほうへ動かすと、1枚の平面が折り線の通りに折られて立体になっていく様子をアニメーションで見ることができる。

Origami SimulatorはWebアプリケーションで、無料で使えるため、アクセスしていろいろ触ってみるとよいだろう。「Examples」には多数のサンプルが用意されており、オーソドックスな「Crane(折り鶴)」や、有名な「Miura-Ori(ミウラ折り)」のモデルもある。「Curved Creases」のカテゴリーには三谷教授デザインによる作品もいくつか収録されている。

三谷教授がデザインした「Comet」。上はOrigami Simulatorに収録されたデータで、下は紙で実際に作った作品。

いろいろな形の作品を作って経験を積んでいくと、平面の状態でも「ここはこういうカーブを入れたほうがいい」「こういう折り目にすれば破綻なく折れる」といった感覚がノウハウとして身に付くのだそうだ。

「最近は、人間の感性を信じてもう少し自由な発想の造形ができないか模索し始めています」と話す三谷教授の最近の作品がこちら。滑らかな曲線が美しく際立つ。

大きくゆるやかな曲線の折り目で作られたアシンメトリーな形。(写真提供:Jun Mitani)

数学からのアプローチと工学の視点からのアプローチ

一昔前、折り紙研究は学問の領域としてまだ確立していなかった。しかし現在は「日本折り紙学会」「折り紙の科学国際会議」などがあったり、「日本応用数理学会」という学会内に「折紙工学研究部会」のような発表の場ができたり、「折り紙」に関係する研究の場は増えてきている。

ただ、どういう視点から折り紙に興味持ったかは、一様ではない。三谷教授の見立てでは、数学の視点からの人が半分、工学の視点から取り組む人が半分くらいだろうとのこと。

数学の視点で見ると、折り紙は幾何学の分野に当たる。例えば、与えられた折り線のネットワークに沿って折ったときに平らに折ることができるかを、どのようにして判定できるか、という未解決の問題がある。適当に引いた折り線を折ってたまたま平らに折れることは極めてまれで、前もってある条件を満たす折り線を引く必要がある。その条件を満たしているかどうかを判定する、あるいはその計算のオーダーはどういうものか、という問題だ。数学者は、主にそのような視点で折り紙にアプローチしているそうだ。

一方、工学の視点は、建築や家具などのデザイン・設計への応用を考えている。大きなものを必要なときだけ広げて、必要でないときは折り畳みたいケースはいろいろなものが考えられるだろう。

例えば大きなものだと、ドーム状の構造物の屋根を天気が良いときは取り払いたいケース。小さなものでは机やイス、テントなど、折り畳んで持ち運べるようにしたいニーズはいくらでも考えられる。自動車のエアバッグや、商品パッケージなども折り畳むものだ。

人工衛星に取り付ける巨大な太陽光電池パネルの折り畳みに使われた「ミウラ折り」という折り方は有名だ。対角を持って引っ張るだけで簡単に広げたり、折り畳んだりできるジグザグのパターンだ。非常に優れた性能を持つ「折り」の技術として工学的に応用され、広く知られている。

Origami Simulatorに収録されているミウラ折りのモデル。

ただ、三谷教授によると、このように工学的に有用で特徴的な性能を持つ「折り」のパターンは、そう多くあるわけではないそうだ。

「折り方に名前が付くほどのものだと、吉村パターン(ダイアモンド・パターン)があります。あとは、もう少し複雑なロンレッシュ・パターンというものがあります。ほかにもなくはないですが、広く使われているのはミウラ折りくらいでしょう」

役に立つかよりも折り紙の「美しさ」に目を向けてみよう

「私のように、研究と言いながら折り紙作品の発表に力を入れている人は意外と少ないのです。私の作品の場合は、工学的に優れた性能を持った折り方をしているわけでなく、純粋に見た目の美しさや面白さを求めているし、そこを評価していただいていると思っています」

三谷教授は、研究者でありながら、折り紙作家、あるいはデザイナーとして、これまでにさまざまなコラボレーションをしてきた。

2010年には、ISSEY MIYAKEが新しいファッションブランド「132 5.」を立ち上げた際、三谷教授とのコラボレーションがそのコンセプトに影響を与えた。同ブランドのWebサイトを見れば「折り紙」というモチーフがどのように生かされているか、その一端が分かるだろう。

また最近では2019年に開催されたラグビーワールドカップ日本大会において、試合ごとに優れたプレーをした選手(Player of the Match)に授与されたトロフィーのデザインに三谷教授が協力した。日本開催だったことから、「日本らしさ」を折り紙に求めてオファーがあったのだそうだ。

しかし結局のところ、折り畳むニーズはあっても、「1枚の平面から、切らずに折り畳まなければいけない」という折り紙のルールを課す必要があるものは、実はあまり多くないのである。

例えば衣服のデザインなら貼り合わせや縫製があるし、何らかのオブジェクトを作るにしても、わざわざ苦労して素材を折り上げるより、折り紙作品“風”の立体を射出形成でつくってしまったほうが早くて安上がりなケースは多い。

紙を折る「過程」で見えてくる思いがけない形を求めて

折り紙をモチーフとする“風味”が欲しいのではなく本当の折り紙をものづくりに生かすなら、「折る」プロセスは必須だ。したがって大量生産の商品とするのには適していない。逆に言えば、折り紙という手法はハンドメイドの一点物や、パーソナルファブリケーションに向いていると言えるかもしれない。

三谷教授に、折り紙の魅力を尋ねてみた。

「立体的なものを作ることが、私は好きなんです。プラモデルや模型を作るのも大好きですし。1枚の平らな状態から『折る』ことだけで立体が立ち上がってくる折り紙は、長年研究してきた今でもとても面白いと思っています。あとは、数学的に──まあそれほどたいしたことではないのですが──計算で導かれる形がそのまま実際に作れる点も面白いですね」

3Dプリンターが個人で所有できるレベルにまで価格が下がり、サイズもコンパクトになってきた。それが無理な人でも、ファブラボなどで手軽に3Dプリンターを利用できる環境がある。それでいて造形の精度は上がった。

「私が研究を始めたころは3Dプリンターが高くて手が出なかったから、紙を使ったという事情はありますけれども(笑)。3Dプリンターって何もないところに『ポン』とモノが出てきちゃいますが、折り紙は折っている途中の変化がすごく面白いんですよね。

3Dプリンターだと自由過ぎて、逆に何を作ればいいか分からない人はいるかもしれません。そういう人にとって折り紙は、『制約の中で何を作り出すか』を考える上で“ちょうどいい”制約になるのではないでしょうか。私は折り紙の用途は提案しません。折り紙という制約の中でどのような造形ができるかを探求し、作品を通じて提案しています。ものづくりが好きな皆さんが、それを見て何にどう生かせるか、考えてみてほしいと思います」

豊橋技術科学大学ICD-LAB「弱いロボット」に学ぶものづくりのアイデアのヒント

※2025年3月末「fabcross」運営終了に伴い、自分が書いた記事をアーカイブとして転載しました。

2021年2月、パナソニックが“弱いロボット”「NICOBO(ニコボ)」の開発を発表、クラウドファンディングでプロジェクトを展開した。NICOBOの見た目は丸いぬいぐるみで、目と鼻、尻尾のようなものが付いている。「なでると、よろこんで尻尾を振る」「寝言やオナラをしたりする」「たまに言葉を覚えてカタコトで話す」「自分では移動できない」といった特徴があるようだ。この、何かの役に立ちそうもないロボットが、約7時間でプロジェクトの目標金額を達成した。

NICOBOは、「“弱いロボット”の研究を通して、人とモノ、人と人の関係や社会のあり方を探求している豊橋技術科学大学の岡田美智男研究室(ICD-LAB)」とパナソニックとの共同開発によるものだそうだ。ロボットに多機能/高性能が求められる時代に、なぜロボットの「弱さ」に着目し、研究しているのか。そんな疑問を抱き、岡田美智男教授に話を聞きに行った。(撮影:中神慶亮[cove1])

ICD-LABで生み出された「弱いロボット」たち

取材に訪れた先は大学の研究室ではなく、豊橋市の「こども未来館」という公共の施設。ICD-LABでは年に1〜2回の頻度で「弱いロボット」たちをここで展示しているのだという。ロボットを子どもたちと触れ合わせて、その反応を見ることも研究の一環なのだそうだ。

なぜ「弱いロボット」をつくるのかを聞く前に、そもそもどんなロボットたちがいて、それぞれ何をするのか、どのように「弱い」のかを見ていこう。

●iBones(アイ・ボーンズ)

まず紹介するのは、展示会場の入り口で出迎えてくれた「iBones」。実はこのiBonesの動画がSNSで話題になったことがある。ポケットティッシュを通行人に渡そうとするロボットだ。人がティッシュ配りをするとき、例えば一歩踏み出して通行人の目の前にスッとティッシュを差し出すようなやり方であれば、受け取ってもらえる確率は高まるだろう。

iBonesは一カ所に止まって、おずおずとティッシュを差し出したり引っ込めたりするばかり。なかなか渡せない。でも、そうやっているうちに、iBonesのおずおず、もじもじした動きと、なかなか受け取ってもらえない様子を見て不憫に思ったであろう人が自ら寄ってきて、ティッシュを受け取ってくれた。

このように、「ロボット単体では何もできないが、周りの人に助けを求めることで『何か』を成し遂げてしまう」ことが、“弱いロボット”の特徴だ。

今回の展示では、新型コロナ禍ということもあり、ティッシュの代わりに消毒用アルコールをiBonesは提供してくれていた。来場者が手を差し出すと、下のタンクからポンプでアルコールを吸い上げて吹きかけてくれる仕組みだ。

●Pocketable-Bones(ポケボー)

ポケボーは、スマートフォンにクリップで取り付け、それを胸ポケットに入れて一緒に街歩きをするロボットだ。動くのは頭の部分だけ。自律的に左右上下をキョロキョロと周りを見回したり、人が見ているのと同じ方向や物を見たりする。

そうすると、ロボットとつながっているような感覚や、関心を共有しているような感覚があって楽しい。あるいは、見知らぬ場所を歩くときも相棒と一緒のような気がして心強い。ポケボーはそういうロボットだ。

ただ、人間だったら一緒にいる人が何を見て注意を向けているかは顔や目の向きを見て察知できるが、ロボットがそれをしようとするとなかなか容易ではない。

そこでこのポケボーでは、人がメガネを取り付けた帽子をかぶることで、それを実現する。このメガネは、JINSが開発したウェアラブルデバイス「JINS MEME」。これに搭載されているジャイロセンサーで人の顔の向きを検知している。同時にスマートフォンのカメラで外界や特定の物体を認識して画像処理を行い、人の視線と調整しながらポケボーの挙動をコントロールしている。

岡田教授は「これが実用的かは分からない」といって笑うが、将来的には地図アプリと連動させてポケボーをナビゲーターにすることで、旅先でのガイドロボットや高齢者の外出支援などへの利用も視野に入れている。

●Talking-Bones(トーキング・ボーンズ)

トーキング・ボーンズは、子どもたちに昔話を話すロボット。でも、ただ勝手に物語を読み上げるだけではない。台座部分に備えられたカメラで子どもの顔を認識して追尾しながら、たどたどしく語りかける。「いまからね、桃太郎を話すよ」「昔々ね、あるところにね、おじいさんとね、おばあさんが住んでいたんだよ」と、こんな具合だ。

そして、「どんぶらこ、どんぶらこと、大きな、えーと……」といった具合に、たまに大事な言葉を忘れてしまう。すると、それを聞いている子どもは「わたし知ってるよ」と言わんばかりに「桃!」と補足する。トーキング・ボーンズは「あ、それそれ」などととぼけた返事をしながら話の先を続ける。そんなことを繰り返して、ストーリーの一部を子どもたちに補ってもらいながら、一緒になって物語を最後まで完成させてしまうのだ。

発話の内容に関しては、ディープラーニングで言語生成しており、リカレントニューラルネットワークで言語をつくろうとするが、古い記憶がだんだん薄れてきて情報の再入力が必要になる──そんな状態を理想としているそうだが、現時点ではまだ作り込みの途中だという。もの忘れをするのもトーキング・ボーンズの「弱さ」の1つであり、それが子どもたちの手伝おうとする気持ちを引き出すことにつながっている。

一方、ハードウェアの観点では、ロボットの体が頭の動きに合わせて生じる“よたよた”した感じのゆれが、そこに物体ではなく「相手」がいることを子どもたちに思わせるのに一役買っている。

「この“よたよた感”がとても重要。動きが硬いと誰も寄ってこないんです。体の間にいくつかスプリングを入れて実現しています。生き物って、完全に静止しているように見えて実は絶えず細かく動いています。最初につくった学生のプロトタイプでは全体の動きに硬さが残っていたのですが、 “よたよた”させたほうがいいよと言って、ばねを入れたらいい感じになった」と岡田教授は説明してくれた。

●Whimbo(ウィムボー)

写真提供:ICD-LAB

見ての通り、マイクである。ただし普通のマイクと違うのは、モーターが2軸取り付けられており、左右に首を振ったり、うなずくような動きをすること。台座部にカメラが付いていて、人の顔を認識している。

例えば、オンライン会議ツールで話していると相手の表情が読み取りにくかったり、相づちにもタイムラグがあったりして、微妙に話しづらいと思ったことはないだろうか。そういう状況で、もしマイクが「うんうん」とうなずいてくれたらちょっと面白いし、話すタイミングを計りやすくなるのではないか──そんな発想から生まれたのがこのロボットだ。ただし、人の話をよく聞いて常に正確に反応してうなずくのではなく、たまにそっぽを向いてしまうこともあるという気まぐれな面もある。

「“気まぐれ”って大事なんですね。こちらの振る舞いに対して従順すぎると、命令を聞くだけの機械に思えてきてしまって面白くない」と岡田教授は話す。人が命令する、それにロボットが従うという一方通行な関係でなく、「主体性を持つ人間」と「主体性を持った“ように見える”ロボット」の間にソーシャルな関係が生まれることを面白がるのが、岡田教授はじめICD-LABの基本的な考え方のようだ。

ちなみにWhimboはまったく動かなくてもマイクとして使える。「コミュニケーションロボットって飽きられちゃうことが多いのですが、飽きられてもマイクとして生き残ることができる。こういうものを、ロボットとオブジェクトの間という意味で『ロブジェクト』と呼んでいます」と岡田教授は教えてくれた。

●ゴミ箱ロボット

底の部分に車輪が付いており、ゆっくり“よたよた”と動く回るゴミ箱ロボット。しかし腕がないため自分ではゴミを拾えない。できることは、何かものが落ちているのを見つけたときに、体を少し震わせたり言葉にならない声を発したりして周囲に小さくアピールすることだけ。でも、それに気づいた人が「ゴミを捨ててほしいのかな」と察して、拾って入れてあげる。するとゴミ箱ロボットは、少しだけ傾いてお礼のような仕草をする。

自分だけではゴミ拾いを完結できない「弱い」ロボットだけれども、周囲の人の助けを上手に引き出して、しまいにはゴミを全部拾い集めてしまう。このゴミ箱ロボットは、ICD-LABが研究している「弱いロボット」の特徴を非常に端的に表しており、代表作とも言えるものだ。

「床に落ちているものをゴミだと判断し、ゴミ箱に捨てる」という一連の作業をロボットで実現しようとすることは、実はかなり難しい。「何でもいいから拾い集める」ならまだ実現可能かもしれないが、「ゴミなのか、捨ててはいけないものなのか」の価値判断はロボットにとって容易でないことは想像できるだろう。

でも、人間なら、簡単に判断できる。だったら無理にロボットにやらせようとしなくても、その部分は人間が補えばいい。そういう関係性が生じるのを促すのが、ロボットがさまざまな形で見せる「弱さ」なのだ。

人同士のコミュニケーションを解き明かすために「弱いロボット」をつくる

岡田教授は、東北大学大学院で工学研究科博士課程を修めた後、NTT基礎研究所、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)勤務を経て、2006年から豊橋技術科学大学 情報・知能工学系で教えるようになった。前職のATR時代から続けている「弱いロボット」を、現在はICD-LABで学生たちと研究している。

研究室の名前のICDとは、「Interaction and Communication Design」の略だ。実は「弱いロボットをつくる」ことはICD-LABの目的ではなく、あくまで研究の手段である。ロボットだと、例えばポケボーをつくろうとしてみて分かったように、人と同じ物に注意を向けることは容易ではない。なぜ人同士のように上手くいかないのか。これを、ロボットを通じて際立たせることによって、人同士がどのようなメカニズムでコミュニケーションをとっているのかを解き明かすことがICD-LABの主たる研究テーマである。さらにその先には、研究から得た人間科学的な知見を、ソーシャルなロボットや、人とロボットとの関わりに生かしていく目的もある。

ロボットというと、人は高機能なものを期待する。かつてはホンダの「ASIMO」や、近年ではボストン・ダイナミクスの創り出すロボットに目を見張り、「こんなに人間に近づいたのか!」と感心する。ロボットの研究は、知性や行動を人に近づけ、人らしさを追い求める方向で進んできた。岡田教授はそれを「足し算型のデザイン」と呼ぶ。

それに対し、弱いロボットの研究は「引き算のデザイン」なのだという。「ロボットに機能を追加していくのではなく、逆にコミュニケーションや社会性と関係のない要素をどこまで削ぎ落とせるかを考えてきた」と岡田教授は話す。

その結果としてできたのが、削ぎ落とし切る一歩手前の「ロブジェクト」であり、できることは物足りなくて、でもどこかに生き物らしさを感じられて放っておけない「弱いロボット」たちなのだろう。

あり合わせのものでつくってみる「ブリコラージュ」の考え方

自分でも「弱いロボット」をつくってみようと思ったMakerがアイデアを出す上でのヒントを岡田教授に聞いてみたところ、「僕らは『ブリコラージュ』という言葉をすごく大事にしています」という答えが返ってきた。

ブリコラージュとは、フランスの社会人類学者であるクロード・レヴィ=ストロースが『野生の思考』という本の中で紹介した言葉で、「寄せ集めて自分で作る」といった意味だそうだ。例えば、レシピ通りに料理をつくると予定調和的な味のものしかできない。でも、冷蔵庫の中のあり合わせの食材を利用すると、意外と美味しくオリジナルな味が生まれる。そのように、あり合わせのものを上手く使うこと、その中で工夫することをブリコラージュと言うのだそうだ。

「制約ってありますよね。締め切りが迫っているとか、技術が足りないとか、予算が足りないとか。僕らはそういう制約をうまく味方につけて、その場その場であり合わせのものを上手に組み合わせると、オリジナルで面白いものができるという発想なんです。それはアイデアを生み出すときも全く同じで。『こんな技術が使えればいいのに』なんて言っていては単なる愚痴になっちゃうので、『無い』ことをうまく利用するということをやっています」

アイデアが生まれるのは、研究室のメンバーが雑談している中からということが多いそうだ。例えば今回の展示イベントにおいて、iBonesという元々ティッシュ配りをするロボットをどうしようかという話になった。しかし、ティッシュを一度人に渡してしまうと、人の手で次のティッシュをiBonesに補給してあげなくてはならない。

「何か面白い使い方はないかな……と話しているうちに、たまたま今コロナ禍にあって、手を差し出してアルコール消毒してくれるようなロボットがいたら面白いよねという冗談半分のような話から実現しました」

雑談中にアイデアが浮かぶと、学生たちの誰からともなく「ちょっと消毒液のボトルを買ってきて、ちゃんと動くものを作ってみよう」という空気になり、センサーやマイコン、ポンプ、チューブなどを調達してきて、2〜3日でiBonesにアルコールを噴霧させる仕組みを作り上げたのだそうだ。

弱いロボットは引き算のデザインから生まれる

岡田教授は「引き算のデザインは個人的なファブでも手が届きやすい」と話す。

確かに、ヒューマノイドロボットをつくりたいと思っても、金銭的にも時間的にも莫大なリソースが必要になりパーソナル・ファブリケーションとしては成り立たないかもしれない。でも、「弱いロボット」ならアイデア次第で面白いものがつくれそうだ。

「引き算をするのでも、いろいろな側面があります。例えばコミュニケーションや言葉をどこまで削ぎ落とせるか。僕らはよくロボットに『モコ語』という言葉を話させるのですが、これは『モコー!』とか『モコモン!』というふうに意味をなさない言葉なんですね。言葉は発するけれど、言葉の意味を削ぎ落とす。でも、どこか生き物らしさがあって、それでいて人間からいろんな解釈を引き出します」

例えばゴミ箱ロボットが床に落ちているもののそばで「モコー」と言えば「ゴミを拾って」と言っているように聞こえるし、拾い入れてあげたあとに「モコモン」と言えば「ありがとう」と言っているように聞こえる。

「ロボットの顔や表情をどうするかという時に、一番必要なのは志向性なので、目を残したいとなることが多いです。でも目は2つなくてもいい。あるいは肯定の意味でうなずいたり、否定の意味で首を横に振ったりする社会的な表示機構も必要。そうやって、できるだけシンプルになるように考えていくことです」

引き算をして、生き物らしさが何もなくなる一歩手前の境地で「何だけを残すか」を考えることがポイントになりそうだ。

「僕らとコミュニケーションできる対象であることを考えると、機械とかただのモノというのは考えにくい。だから、生き物らしさ、どこかにソーシャルな性質を残しておけばいいわけですが、それをどこまで残すかという辺りが考えどころです」と岡田教授はアドバイスしてくれた。

ICD-LABのウェブサイトでは、本記事で紹介しきれなかった数々の「弱いロボット」たちが、論文タイトルや動画とともに紹介されている。興味を持った読者はぜひ一度訪れて、自分なりの「弱いロボット」のアイデアを膨らませてみてほしい。

元鉄筋工が開発した鉄筋結束ロボット「トモロボ」を作り上げた「引き算の開発」とは?

※2025年3月末「fabcross」運営終了に伴い、自分が書いた記事をアーカイブとして転載しました。

建設業界では現場で作業する職人が高齢化している上に、厳しい労働環境が若手の参入を阻んでおり、近い将来の労働力不足が懸念されている。そんな建設業界で、つらい作業の多い鉄筋工の作業の負担を減らす「トモロボ」が注目を集めている。これを開発したスタートアップ、建ロボテックの代表取締役 眞部達也氏に、建設業界からロボット開発に参入した経緯と、現場の省力化に懸ける思いを聞いた。(撮影:川島彩水)

「一番面白くない仕事」鉄筋結束を自動化するトモロボ

「トモロボ」は、建設現場において鉄筋の結束作業を自動化するロボットだ。「鉄筋コンクリート造」といった言葉は聞いたことがあるかもしれないが、通常、コンクリートで建物を建築する際は、細長い鉄の棒(鉄筋)をコンクリートに埋め込んで、引っ張り力に弱いコンクリートを補強する。鉄筋は床、柱、梁(はり)などに用いられるが、トモロボはその中でも床の鉄筋敷設時の結束作業に特化したロボットだ。

鉄筋を埋め込む手順は、まずコンクリートを流し込む型枠を組み立て、その中に鉄筋を縦横に交差させて網の目のように並べていく。並べるといっても、型枠の底面に置くのではなく、流し込むコンクリートの真ん中あたりにくるように、スペーサーと呼ばれる部材を使い底面から少し浮かせた状態で並べていく。

この鉄筋の網の目の交点は、半数以上を結束線と呼ばれるワイヤーで固定しなければならないことが、建築関連法規で定められている。結束作業は基本的に屋根がない状態で行うため、夏の炎天下や冬の寒風吹きすさぶ中で作業しなければならない。過酷な屋外の環境で、不安定な鉄筋の上を歩きながら、田植えをするときのような中腰の姿勢で大量の結束を行うのは、非常につらい作業だ。

建ロボテックの眞部氏がこの結束作業に着目してロボットを開発しようと考えた理由は明快で、「一番面白くない仕事だったから」。「延々と同じことをやる、終わりが見えない。大嫌いでした」と笑う眞部氏は、親から継いだ鉄筋工事会社の経営者であり、自身も現場で働いたことのある元鉄筋工の職人だ。

鉄筋をレール代わりに移動、交点を検知して自動で結束

トモロボは、3本の鉄筋をまたいで、それぞれの鉄筋をレールのようにして車輪を乗せ、自律走行する。交点を検知するのは磁気センサーだ。レーザーセンサーではなく磁気センサーを採用したのは、直射日光による誤作動を避けるため。

交点の上に移動すると一時停止し、それに合わせてトモロボの左右に取り付けたマックス製の鉄筋結束機「RB-440T」を降ろして交点をつかみ、自動で結束する。

鉄筋結束機が鉄筋の交点を挟み、斜めにワイヤーで結束する

ちなみに、マックスの鉄筋結束機の登場も、ロボット開発の1つの契機だったと眞部氏は話す。本来、人の手で行う鉄筋の結束は、簡単そうに見えて実は複雑だ。2本の鉄筋の交点をワイヤーでぐるりとくくり、ねじって締める。新人が現場の職長に怒られない程度のスピードで結束をできるようになるまでに、2カ月程度の練習が必要なほどだ。

ホチキスのメーカーとして知られるマックスが、結束を自動化する電動工具を最初に発売したのは2013年のこと。何十年もの間、まったく変わらなかった現場にとってブレイクスルーではあったが、初期のものは精度が低く結束ミスも多かった。しかし2017年に発売された新型機種は大幅に改良され、現場の要求に十分応えるレベルになった。眞部氏は、「これを使えばロボットができる」と確信したそうだ。

200mm間隔で並べた鉄筋で、結束機2台を取り付けたトモロボに作業させた場合、交点1カ所当たり2.7秒以下で結束できるという。すべての交点を結束する「全結束」のほか、交互に1つ置きに結束する「チドリ結束」や「2つ飛び結束」なども設定可能だ。

建設業界では現場の職人の高齢化が進むのと同時に、労働環境や待遇面の問題から若年層は建設業界を避けるようになっており、遠くない将来の2025年には35万人を超える労働力が不足するとの試算もある。

そんな中、建設現場の作業を、技術を使って省力化し、職人の単純労働の負担を減らし、より付加価値の高い仕事をできるようにしたい、若者にも魅力ある業界にしたいとの思いから、眞部氏はトモロボの開発に踏み切った。

鉄筋工事会社の社長がロボットを開発するに至った理由

実はもともと眞部氏は料理人だった。料理の専門学校を卒業した後、22歳まではレストランで働いていた。しかしその後、家の事情により継いだ鉄筋工事会社を経営することになった。

自身も現場に出て働く中で、建設業には省力化できる余地が大きいと感じ、そのための工法や部材を開発すべく、2013年にEMOという会社を立ち上げた。ちなみにEMOは表向き「Epoch Making Organization」の略ということになっているが、実は「エロい、まなべ、おもろい」の略だったと眞部氏は明かす。「なんかね、エロくておもろい開発がしたかったんですよ」。

とはいえ、当初はロボットを作るとは思いもしなかった。しかしやがて「細々した省力化では解決しない課題もある。やはりロボットが必要だ」との考えに至ったのが2016年頃のこと。それからは、トモロボの原型である鉄筋結束ロボットの企画書を作り、知り合いづてにファクトリーオートメーションの専門会社などを回った。しかし反応は、「屋外の自走型なんてウチにはできない」といったものばかりで、たらい回しにされていたと眞部氏は振り返る。

そんなある時、たまたま知り合った元総合電機メーカーの人物の口利きもあり、広島県福山市の設備機器メーカーであるサンエスとロボットを共同開発することになった。建ロボテックを設立したのは、サンエスとトモロボの試作を終えて、いよいよ量産するとなった段階の2019年10月のこと。その際に、サンエスの技術リーダーが建ロボテックに移籍し、現在も技術責任者を務めている。

建ロボテックのWebサイトより。左が取締役CTOの井上治久氏。共同開発をするうちに眞部氏の理念に共感し、サンエスから移籍した。

それにしても、建設業からロボット開発の世界へ飛び込もうと考える人はなかなかいないのではないか。そのことを眞部氏に尋ねると、「誰に話してもそう言われます」と言った後に、「料理って、実は科学なんですよ」と料理人時代のことを話し始めた。

「たんぱく質は温度が何度になったら固まるとか、殺菌には何度で何分とか。科学の要素がかなりあって、味も全部その足し算と引き算なんです。そういうことを頭の中で組み立てていやっていくのが料理の本質だと思っています」

レストランのオペレーションに関しても、同様にロジカルに考えるという料理の世界から建設業に足を踏み入れた眞部氏の目に、建設業界は「めちゃくちゃ無駄が多い」世界に映ったそうだ。畑違いの業界にいながら「ロボットを作ろう」と思えたのは、「おもろいことをしたい」という遊び心と、料理人時代に培われた科学的な思考がなせるわざだったのだろう。

最初に「販売価格は200万円」と決めて開発をスタート

「僕らの開発は、基本的に『引き算の開発』」と眞部氏は話す。

ロボットを建設現場で使うとなると、重量との戦いがある。現場ではすべて人が運ばなくてはならないからだ。床の上を運ぶだけなら押すなり引くなりすればよいが、上の階に持っていくなど上下の動きもある。そうなると1人からせいぜい2人で運べる程度の重量でなくては使えない。

さらに、建設現場は雨風にさらされることもあれば、真夏や真冬の気温の中でも問題なく動く耐環境性も求められる。また、現場の職人が使い方を理解し、手先の延長となる「道具」として手軽に扱えるシンプルさや、職人の手荒い扱いに耐える頑丈さも必要となる。

そういった要件を備えつつ、「ロボットが現場で使われ、職人と共に働く『シーン』を作ること」が、トモロボ1号機の開発コンセプトだと眞部氏は話す。現場の職人には口で説明するよりも、具体的に見せたほうが使ってもらえる確信があったからだ。ちなみにトモロボの名前は、この「職人と“共に”働くロボット」イメージに由来する。


トモロボの作業イメージ。人のいる環境でゆっくり動きながら黙々と作業する。

「最初に販売価格を200万円に決めました。仕様も何も決まっていない時に」

建設業界は利益率が低く、工事会社に許される投資金額は限られる。市場にフィットする価格感として導き出されたのが200万円という価格だった。加えて、ロボットの重量も人が運べる40kg未満に収めると決めた。

その後は、ロボットにやらせたいことをイメージして全部書き出し、優先順位を付けた。そして優先順位が低いものから消していき、本当にやりたいことだけに絞り込む。この段階からエンジニアにも検討に入ってもらい、「この機能の実現にはこういうセンサーが必要で、これくらいの価格になる」「それは高いので別のやり方で機能を実現できないか」といったやり取りをしながら、徹底的にそぎ落としていった。

「エンジニアって、自分たちの持つ技術や知見を生かした『すごいもの』を作りたいと思うんですよね。でもそんなのは全部無視しました。『これができます』『あれもできる』といわれても、不要なものは『要らない』といいました」

ちなみに、鉄筋は建物の床だけでなく柱や梁(はり)にも通すが、トモロボは「床」の鉄筋結束に特化している。どれもこれも対応しようとすれば、それだけ開発に時間がかかるからだ。交点が多いという意味では床が突出しているし、床だけでも自動化できれば工程全体の省力化インパクトは大きい。だから、まずは床に絞り、簡単なものを素早く開発しようという狙いだった。これも「引き算」の考え方だろう。

最初の試作機。(写真提供:建ロボテック)

人のあやふやな作業にロボットを対応させる難しさ

製品として出来上がったトモロボは、3本の鉄筋の上を6つの車輪を持って走るが、当初は2本の鉄筋の上を4輪で走らせようとしていた。そこに特段の考えはなく「走る車に自動結束機を持たせて上下させればいい」という程度の発想だったが、まずここが開発における難所だった。

「鉄筋って、少し宙に浮いていて、鉄の棒なので自重でたわむんです。そこへ、結束機を取り付けると40kgにも及ぶトモロボを乗せると、レールが不安定で脱線してしまう。また、鉄筋は人が並べているので間隔は一定でなく、2〜3cm程度の誤差がある。そこに対応するために、3列6輪になりました」

3列、つまり3本の鉄筋をレールとして使うことにより、鉄筋1本当たりの荷重が小さくなり、たわみを抑えられるようになった。また、3列だと中心を支点として「やじろべえ」の原理を利用した機構を組み込むことができた。これにより、ゆれはするものの、ロボットの姿勢が安定するようになった。姿勢の制御に関してはセンサー類を使わず、機械的に行っている。

試作品が一応の完成を見るまでに約1年かかったが、量産化へ踏み切った後も「引き算の開発」は続いた。眞部氏は量産化のフェーズを「一番面倒くさかった」と話す。その要因として、関連法規への対応や耐久テストなどが必要だったことが挙げられる。法規への対応は、例えばロボットの筐体が人にぶつからないようにワイヤー型のセンサーを設置する、リチウムイオン電池では飛行機で運べないためリン酸リチウム電池に置き換えるなど、その影響範囲の大小も含め多岐にわたる。

また、検討・試作段階でもある程度の「引き算」は済んでいたが、量産設計をする段階で、例えば専用に開発していたパーツを廉価な市販品に置き換えたり、それに合わせるために影響する部分を設計し直したりするなど、さらなる「引き算」が必要だった。また、職人が使いやすいユーザーインタフェースをデザインするために、香川大学の教授にも手伝ってもらった。結局、量産開発にも丸1年の月日を費やした。

上部のコントローラーは、職人にも分かりやすいシンプルなデザイン。前後の黒いワイヤーになにか触れると安全のため停止する。

製品が完成し、販売を開始した後にも問題は起きた。トモロボは直径10mm/13mm/16mmの3種類の鉄筋に対応できるとして販売していたが、実際の現場では16mmに対応できないケースがあることが分かったのだ。

「そこからはもう、売りながら改良しました」と眞部氏は苦笑いする。計算上は直径16mmの鉄筋にも対応できるはずだった。しかし、いざ現場に置いてみると、鉄筋が斜めに置かれて直交していなかったり、たわみのせいで縦の鉄筋と横の鉄筋の間に大きな隙間ができたりして、ワイヤーをきれいに結線できなかったのだ。

「人がやっている作業に対してロボットが途中参加するのは、すごく難しい。開発で何が難しかったかと聞かれたら、一番に『人のあやふやさに対応する、あやふやなロボットをつくること』だと答えます」

想定外であやふやな状態に対応するために何をしたのか。眞部氏の答えがまた面白い。

「ロボットを、どんどん“テキトー”にしていったんですよ」

つまり、細かい部分に“遊び”を作ったのだそうだ。具体的には、ビス留めをする箇所で、ビス穴をビスの直径より少し大きめにして、中で“遊ぶ”ようにゆるくする。それが、ロボット全体の“遊び”になるのだという。ロボットに遊びが無ければ仕事をしない、でも、遊びをつくり過ぎても駄目。「その“テキトー”の範囲を定めるのが大変だった」と眞部氏はトモロボの開発の過程を振り返った。

現場を知る者だけができる、現場のための技術開発を

発売当初は売り切りの販売モデルでスタートしたトモロボ。「ロボットをたくさん売ってお金持ちになるぞとしか思っていなかった」と冗談めかして話す眞部氏だが、今後は「ロボット派遣サービス」として工事会社の現場にトモロボをレンタルし、使用時間や結束回数などによる従量課金モデルへの転換を考えているのだという。

「売り切りのモデルだと、お客様のためにならないことが分かった。それが一番の理由です。これまでに10社がトモロボを買ってくれていますが、稼働率は10%程度。そもそも僕らは工事会社のため、現場の職人のためにロボットの開発をしたのに、ロボットへの出費が職人の給料を減らす理由になっては元も子もないですから」

現在は通信モジュールを開発中で、5月頃からトモロボをインターネットにつなぐ予定だ。これにより稼働状況を把握できるようにするほか、将来は遠隔操作も視野に入れている。

またプロダクトのラインアップも増やす予定だ。トモロボは、鉄筋の上を端から端まで走行した後、隣の鉄筋に移すには人の手が必要だ。建ロボテックでは現在、これを支援するスライダーという道具を出しているが、近くこれを自動化して、人の手をかけずに床一面の自動結束を可能にする。

ほかにも、現場で重い建材などを運ぶ「運搬トモロボ」の開発を進めており、トモロボシリーズとして順次開発・リリースしていく考えだ。

眞部氏は今後の展望について、「これまで価格や重量の制約のためにそぎ落としてきたものの中に、実は優先順位の高い機能もあった。それを順番に他のロボットとして出していく。今は一つ一つの作業をロボット化していますが、ゆくゆくはトモロボシリーズを通じて建設現場の工程全体を自動化していきたいと考えています」と話す。

数年後の未来、建設現場では職人と共にさまざまな個性を持つトモロボが働くシーンが見られるかもしれない。

2021年3月に東京ビッグサイトで開催された「建築・建材展2021(主催:日本経済新聞社)」に出展。多くの人が足を止めて眞部氏の話を聞いていた。

自律+軌道走行のハイブリッド自動搬送ロボットで、物流現場の問題解決に挑むLexxPluss

※2025年3月末「fabcross」運営終了に伴い、自分が書いた記事をアーカイブとして転載しました。

近年のECの市場拡大に加え、コロナ禍での需要増から、「物流」が改めて人々の生活を支える重要な社会インフラとして認知されてきた。しかしその半面、人口減少や少子高齢化を背景に、物流業界の人手不足感は年々強まっている。そうした物流現場の問題を自動搬送ロボットで解決すべく2020年3月に創業したスタートアップ、LexxPluss(レックスプラス)の代表取締役CEO阿蘓将也(あそ まさや)氏に、起業の経緯とプロダクト開発の背景、今後の展望について聞いた。(撮影:加藤甫)

人と協調して働く自動搬送ロボット

倉庫と聞くと、アマゾンを始め自動化がダイナミックに進んでいる業界のように思えるかもしれない。しかし、現状、殆どの物流倉庫では、品物を載せたパレットを運ぶフォークリフトや、ピッキングする作業員が庫内で行き交う非常にアナログな現場である。

LexxPlussが開発しているのは、そんな物流倉庫で使われる自動搬送ロボット(AMR:Autonomous Mobile Robot)だ。倉庫における自動搬送ロボットは、「無人の環境で動くロボット」と「人がいる環境で、人と協調して動くロボット」の2種類に大別できる。

Amazonが2012年に買収したKiva Systemsの技術をベースにした自動搬送ロボットは、現在グローバルで導入が進んでいるが、これは無人の環境で動かす類いのロボットだ。作業員は定位置にいて動き回ることはなく、代わりにロボットが倉庫内を縦横無尽に動き回り、棚や台車を人のいるところに運んでくる。全体を俯瞰して複数のロボットを最も効率的に動かす完全自動化システムは、ロジックを組んでその通りにロボットを動かすことができればよく、「人とぶつからないように」といった安全性を考慮しなくてよい分、比較的容易に実現可能だ。

ただ実際のところ、物流業界を見渡してみれば完全に無人の倉庫はないといっていいし、それを目指してすらいない物流企業がほとんどだ。

阿蘓将也氏。2020年3月末に創業したLexxPluss代表取締役CEO。かわさき新産業創造センター(KBIC)の1室がオフィス。部屋を飛び出し、廊下を使って走行テストを行うことも。

「自動搬送ロボットの開発はさまざまな企業が取り組んでいますが、人が活動する領域で、正確に、安全に、効率よく動けるロボットがあるかというと、ある動きはできるが、別の動きはできないといった具合で、十分なものはありませんでした。加えて、動きが限定的なロボットですら導入できていない倉庫が大半です。倉庫の約80%は、そもそも自動化ソリューション導入に向けた試験すらできていないというデータもあります。僕らはそこに可能性を見いだしました」と阿蘓氏は話す。

自律走行と軌道走行をかけ合わせた「ハイブリッド型」の強み

LexxPlussの自動搬送ロボットは、「自律走行モード」と「軌道走行モード」という2つのモードを備え、場面に応じて切り替えられる「ハイドブリッド型」であることが特徴の一つだ。

「自律走行モード」とは、自動運転でも使われているセンサーやLiDARなどを用いて、周囲を認識して障害物を避けたり、場合によってはいったん停止したりしながら目的地に向かって自律的に走行するモードのこと。

一方、「軌道走行モード」は、床面に軌道線を引き、その軌道上を走らせるモードだ。これまでも製造工場などで磁気テープ誘導による無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)は長らく使われてきたが、LexxPlussは20年近く技術革新がなかったAGVを高度化させた「次世代AGV」を開発した。磁気テープではなく、コードを印刷したテープを軌道線とし、特殊なカメラを使ってさまざまな情報をテープから読み取る。それを、独自に開発したシナリオベース制御システムと掛け合わせることによって、ロボットに30種類以上の多様な動きを与えることができる。

軌道走行モードで使用する軌道線には独自のドットコードがプリントされている。

「この2つのモードを、倉庫をはじめとする物流現場のやりたいことに応じてパズルのように組み合わせて使える点が、ロボットを制御するソフトウェア面の特徴です。これによって、現場の作業工程やレイアウトを変えずとも、人や設備とロボットが精緻に連携できます」

技術に優劣はなく、問題を解決できる技術を採用する

現在では、物流システム/マテハン(マテリアルハンドリング)機器メーカーのみならず、自動運転技術を持つ総合電機メーカーなども自律走行を主軸とした自動搬送ロボットの世界に参入してきている。そのような流れの中で、LexxPlussが枯れた技術ともいえる軌道走行とのハイブリッドにしたのはなぜか。

「自律走行は、例えば人を見たら自律的に迂回(うかい)する技術です。周りの環境が変わると、それに合わせてロボットの挙動も少しずつ変わり、位置がずれてくるんですね。でも、実際の物流現場のロボットに対する要求水準はすごくタイトです。例えば、搬送する棚を『だいたいこの辺に置いて』ではなく、『作業員の真横◯cmの位置にこういう向きで置いてくれ』というレベルで指定されます。そして、100回やったら100回同じ場所に止めなければなりません」

作業員が棚から物を取って梱包作業をする際に、一歩踏み出して物を取るか、その場で動かず物を取れるかの違いは、作業効率に影響する。1回ごとには大して差がないように見えても、小さなロスが積もり積もって、例えば出庫時間が予定を大きく過ぎてしまうことにもなりかねない。

「そのような精緻な搬送は、人間に任せるほうが簡単なんです。でも、ロボットの自律走行でやろうとすると、繰り返しで精度を求められるものは意外に難しくてやりにくい」

自動搬送ロボットのハードウェア「LexxHard」の試作モデル「V3」。この上に棚や台車を載せて走行する。複数のカメラ、センサー、LiDARなどを搭載し配線が込み入っている。

では、軌道走行モードで同じ動作をさせればよいかというと、そうはいかない事情がある。物流倉庫では、例えばセールの時期は大きく作業量が増え、ロボットに求められる動きが変わる。倉庫によっては朝と夜で使い方が違うこともあり、同じ磁気テープをずっと引いておくことは考えにくいのだ。

そうした現場の細かいニーズに対応するためには、棚を作業員に横付けするときや狭い通路を通る際には軌道走行に、作業場所と作業場所の間の長い距離を行き来するときは自律走行に切り替える「ハイブリッド型」が現時点での最適解だという判断に至った。

「自律走行と軌道走行、2つの技術の間に優劣はなく、単に技術の種類が違うだけ。両者の“いいとこ取り”をして、それぞれの技術の得意な部分を使い分けるのがよさそうだと考えた結果が、ハイブリッド型でした」

当初の起業アイデアは「高層マンション向け自動搬送ロボット」

1990年生まれの阿蘓氏は、名古屋大学機械航空工学科を卒業後、英マンチェスター大学に進学する。そこで機械工学デザインを学び最高位で修了した後、2015年に日本に戻りボッシュへ入社した。2年間に及ぶ同社独自の若手リーダー育成プログラムを通じて、自動運転開発に携わった。その後、社内の新規事業である自動バレーパーキング(AVP:Automated Valet Parking)システムの日本開発チーム立ち上げに技術リーダーとして参画した。

バレーパーキングとは、ホテルなどでクルマを駐車する際に、運転手に代わってホテルの係員が駐車作業を行うサービスのこと。これを、係員ではなくクルマ自身が行うシステムがAVPだ。AVPは同じ自動運転でも公道を走らせるのと違って、クルマを動かす空間が限定的なのが特徴だ。この経験が、後の起業時に「何をつくるか」を考える際に影響を与えることになる。

「潜在的には、いつか自分で何かやりたいと思っていました」と話す阿蘓氏は、過去にもアプリの起業アイデアを持って投資家のもとを回ったり、Deep4Driveというモビリティサービス開発有志団体を設立したりもした。そんな中、今回LexxPluss起業の最初のきっかけとなったのは、ボッシュ在籍時にチームで雑談中にふと生まれた「高層マンション向けの自動搬送ロボット」のアイデアだった。

「高層マンションの構内は広い。荷物を持ってエントランスと部屋を行き来するのは大変だから、搬送を自動化したらいいんじゃないか」。そう考えた阿蘓氏は2019年秋頃から本格的に動き出し、利用者として想定する高層マンション居住者へのヒアリングと、ロボットのプロトタイプ制作に取り組み始めた。

コロナ禍の今も毎週のように顧客と対話し、常に現場の問題と向き合ってプロダクト開発に生かす。

「自動運転やロボットで難しいのは、ビジネスモデルなんです。開発コストが非常に大きいこれら技術を顧客が導入する理由は、『人手にかけていたコストが大きく削減できる』か、そうでなければ『付加価値がとてつもなく大きい』しかありません。高層マンション向けの搬送ロボットは後者の位置付けで『行ける』と当初は思っていたのですが、ヒアリングを重ねる中で『あれば助かるけれど、費用を払うほどではない』というのが大方の意見だと分かりました」

ビジネスとして成立しづらいと判断した阿蘓氏は、高層マンション向けロボットを断念。すぐさま、現在の物流倉庫向けの自動搬送ロボットにピボットした。2020年3月の会社設立直前のことだった。

「メーカーの工場から物が出荷されて倉庫に行き、届け先まで運ばれる。この物流の一連の流れのどのプロセスにも、自動化のニーズはあります。ただ、宅配業者が担っているラストワンマイルの部分は公道がフィールドですから、技術的に必要な要素も多く難易度が高い。でも、物流倉庫であれば空間が限定されていますし、前職の自動バレーパーキングシステムに携わった経験から、技術的に何が必要で何が不要かは感覚的に分かっていました。自分たちが持つ技術と、自動化のニーズが合致したところが倉庫の搬送自動化だったというわけです」

ロボットへの対価でなく倉庫の業務効率化という「成果」に課金

LexxPlussでは、自動搬送ロボットを作って販売して終わりという、従来型の製造業のビジネスモデルは想定していない。

「具体的なビジネスモデルは、まだ検討しているところです。最終的に目指しているのは、僕らのロボットが広く使われることはもちろんですが、使われたことによってお客さまの倉庫での業務が効率化されることです。最終的な成果から対価をいただくモデルにしたい。その可能性の一つとして、Robot as a Service(RaaS)というサブスクリプションモデルを考えています」

企業が実際にロボットを導入するまでには、検討、導入、運用の3つのフェーズを経ることになる。LexxPlussは、その3つを合わせて総合的に付加価値を提供できるようなビジネスモデルの設計を試みている。ただ、現時点ではプロダクトが開発中ということもあり、先行して検討フェーズの企業向けに「自動搬送ロボットの導入分析サービス」を有償で提供しているところだ。

プロダクトがリリースされた後は、導入フェーズの企業のニーズに応じて、「販売してほしい」という企業には販売モデルで対応し、導入後の運用も必要としている企業にはRaaSで対応する、そんな未来が阿蘓氏には見えている。

「理想としては、検討と導入フェーズのサービスは無料で提供したいと考えています。お客さまはロボットが欲しいわけじゃなくて、ロボットを使って業務効率化と安定的な運営をしたいのですから。そこまで行き着いた段階で対価をいただくモデルに、できればしていきたいと考えています」

持てる技術よりも、まず問題に向き合う

目下LexxPlussのメンバーが注力しているのは、ハードウェアである自動搬送ロボット「LexxHard」の量産モデルとなる「V4」の開発だ。試作機の位置付けだったV3をベースに、サイズを60×60cmに収め、筐体デザインも施して市場に投入できる形にバージョンアップする。小型ながら、積載重量は300kg、牽引なら500kgまで運べるLexxHardのパワフルさは「グローバルのニーズにも十分応えうる」と阿蘓氏は確信する。

LexxHard V4のデザインスケッチ。

また、LexxHardの動きを司るソフトウェア「LexxAuto」については、基本技術はすでにあり、現在は物流現場に合わせたクオリティー向上に勤しむ日々だ。

「僕らが目指しているのは、軌道走行で止まったときの誤差を99%以上、±1cmに収める精度です。現状では、同じ作業をすれば必ず目指した位置に止められますが、いろいろな動作シナリオと組み合わせた場合にも精度を保ち、人との作業連携に問題が起きないようにするのが目標。あとは、モードの切り替え速度を早めるなどの細かいチューンアップをしながら、ソフトウェアの品質を磨き続けています」

LexxPlussは、コーポレートビジョンに「Sustainable Industry, Sustainable Life (持続可能な産業と持続可能な生活を)」と掲げてスタートした。「自分はエンジニア出身なので技術起点で考えがち」と話す阿蘓氏は、このビジョンに込めた意図をこう語った。

「解決すべき問題をおろそかにしてしまって、技術ドリブンでプロダクトを作ってみたら全然売れなかった──そういう話は技術会社の“あるある”ですよね。だから僕らは、まず問題に向き合う、その解決のために技術を使う会社でありたいと思いました。今はロボットが問題のソリューションとして正しいと思ってやっていますが、10年後は違うかもしれない。その時は、何か全く別のプロダクトをつくっていてもいい。自分たちの生活の基盤となっている産業を支える、このビジョンは普遍的なターゲットであり、熱意を持って取り組んでいけると思っています」